鳩・カラスなど鳥への餌やりが迷惑!|やめさせる法律・条例ってないの?

隣人トラブル

公園や広場で、鳩やカラスにパンなどの餌をまき、鳩が集まっている光景を見かけることがあります。

この餌やり行為に、迷惑をしている周辺住民の方も多いのではないでしょうか。

  • そもそも、鳩やカラスへの餌やり行為自体は違法なのか?
  • 法律や条例などで制限されていないのか?
  • 迷惑なので通報したい場合、警察や市役所は相談にのってくれるのか?

など、様々な疑問があると思います。

この記事では、鳩やカラスへの餌やり行為にまつわる法律問題について、分かりやすく解説していきます。

鳩やカラスへの餌やりは違法?法律や条例はある?

1.法律|動物愛護法

動物の適切な取り扱いなどについて定めた法律として、「動物の愛護および管理に関する法律」があります。

この記事では「動物愛護法」と呼びます。

動物愛護法第25条は次のように規定しています。

第25条

第1項
都道府県知事は、動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によって周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導又は助言をすることができる。

第2項
都道府県知事は(中略)当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

第3項
都道府県知事は(中略)勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

この法律を受けて、環境省令では、次のとおり定められています。

動物の愛護及び管理に関する法律施行規則

第12条(周辺の生活環境が損なわれている事態)

法第25条第1項の環境省令で定める事態は、次の各号のいずれかに該当するものが、周辺地域の住民(以下「周辺住民」という。)の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ、当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる事態及び周辺住民の日常生活に特に著しい支障を及ぼしているものとして特別の事情があると認められる事態とする。

1号 動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に伴い頻繁に発生する動物の鳴き声その他の音
2号 動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に伴う飼料の残さ又は動物のふん尿その他の汚物の不適切な処理又は放置により発生する臭気
3号 動物の飼養施設の敷地外に飛散する動物の毛又は羽毛
4号 動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水により発生する多数のねずみ、はえ、蚊、のみその他の衛生動物

上記、動物愛護法第25条及び同施行規則第12条により、公園の鳩やカラスに餌やり(給餌)をすることで、周辺の環境を著しく悪くしている人がいれば、その人に対して、都道府県知事はその餌やりをやめるよう、「指導・助言し、期限を定めて必要な措置をとるよう勧告し、勧告に従わなければ、期限を定めて措置をとるよう・命令」をすることができます。

命令に違反した場合の罰則は50万円以下の罰金刑です(動物愛護法第46条の2)。これは当然に「前科」となります。

給餌行為によって「周辺の環境を悪くする」とは、上記施行規則第12条に定められたとおり、次の各場合です。

  • ①鳴き声やその他の音(羽音など)の頻繁な発生
  • ②食べ残し、糞、その他の汚物による臭気
  • ③羽毛の飛散
  • ④多数の、ねずみ・はえ・蚊・のみその他の衛生動物(人の衛生に直接的な害を及ぼす有害動物)の発生

注意が必要なのは、動物愛護法第25条各号から分かるとおり、餌やりをやめるよう指導・勧告・命令をすることができるのは、あくまで「都道府県知事」であり、迷惑を被っている周辺住民ではないということです。

上記施行規則に定められているとおり、迷惑を被っている周辺住民は、都道府県知事に苦情の申し出等をすることで、生活環境の悪化が周辺住民間の共通認識となっていること、または、悪化により日常生活に特に著しい支障が生じている特別の事情があることを認定させ、都道府県知事に対し、職権の発動を促すことができるにとどまります。

迷惑をしている場合に、餌やりをしている者に注意をすること自体は問題ありませんが、周辺住民が動物愛護法を根拠に餌やりを止めさせることができるわけではないことに注意をしておきましょう。

ただし、上記施行規則における、周辺の生活環境が損なわれている事態と認定されうる程度の被害が生じているなら、民事上の損害賠償請求や差し止め請求が認められる可能性があることは別論です。

この点については後述します。

条例はある?

上に説明したとおり、動物愛護法25条は、都道府県知事の権限を定めたものであり、市区町村の権限とは無関係です。

そこで、市区町村によっては、鳩やカラスへの餌やりについて、条例で規制している場合があります。

以下、実際に規制している条例を3つ紹介します。

条例その1:富山市の「カラス被害防止条例」

富山市には、「カラス被害防止条例」(※)があります。
https://www1.g-reiki.net/toyama/reiki_honbun/r181RG00001102.html

この条例は、カラスへの餌やりにより発生する周辺の住民環境の被害を防止し、良好な生活環境を守ることを目的として、制定されました(第1条)。

同条例は第2条3号において、「給餌」を次のように定義しています。

<第2条3号>
「自ら所有せず、かつ、占有しないカラスに餌を与えること(餌を目当てにカラスが集散することを認識しながら、カラスが食べることができる場所に餌を置き、又は放置する行為を含む。)を継続し、又は反復して行う行為をいう。」

そして、同条例は第5条において、「市民等は、給餌によりカラス被害を生じさせてはならない。」と規定し、カラスへの餌やりを禁止しています。「カラス被害」とは、①鳴き声その他の音、②ふん尿その他の汚物から発生する臭気、③羽毛の飛散、④攻撃、威嚇及び破壊行為です(同2条4号)。

仮に第5条に違反して、カラスへの餌やりをした場合には、勧告(第8条)、命令(第9条)、公表(第10条)をなされる可能性があり、命令に従わなかった場合には、「5万円以下の罰金」に処せられます(第12条)。

条例その2:世田谷区環境美化等に関する条例

東京都世田谷区には、「世田谷区環境美化等に関する条例」があります(※)。

https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/sumai/011/005/d00160746_d/fil/tabaccorule1.pdf
この条例第4条第3項は、次のように規定しています。

<第4条第3項>
「区民等は、周辺住民の良好な生活環境を確保するため、給餌による迷惑行為を行うことのないよう努めなければならない。」

さらに同条例は、自分が所有も占有もしていない鳩やカラスへの餌やりによって、①鳴き声その他の音、②ふん尿その他の汚物の放置及びこれらにより発生する臭気、③羽毛の飛散、④攻撃、威嚇及び破壊行為による周辺住民への被害を生じさせをしないよう、区民に努力義務を課しています(同条例第4条第3項、第2条9号及び10号)。

「努力義務」ですから、罰則は定めていません

条例その3:大阪市の改正条例

大阪市の住吉区では、約10年間にわたって特定のグループが毎朝、鳩やカラスに餌やりを継続していたことから、被害を受けている周辺住民は、規制を求める陳情を、市に提出しました。

市議会は、これを受けて2019(令和元)年「大阪市廃棄物の減量推進及び適正処理並びに生活環境の清潔保持に関する条例」(※)を改正し、公園、広場、道路等の公共の場所において、鳩やカラス、その他の動物に餌を与えた者に対し、餌だけでなく、フンや尿、羽毛などの清掃等を行うことを義務付けることとしました(同条例26条4項)。
https://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000009846.html#4

また、市長はこれに違反することによって、生活環境を著しく阻害していると認められる者に対して、期限を定めて、必要な改善その他必要な措置を命ずることができるようになりました(同条例29条)。

この市長の命令に違反した場合には、5万円以下の過料に処されます(同条例43条1項2号)。

自分の自治体の条例を確認

条例は自治体によって内容が異なります。

鳩やカラスへの餌やりを禁止する条例を制定している自治体もあれば、そうでない自治体もあり、罰則のある自治体もあれば、罰則はない自治体もあります。

したがって、まずはお住まいの市区町村の条例の有無、内容を確認しましょう。そのうえで、条例がない場合や罰則がなく実効性が期待できないと思われる場合には、①都道府県知事に対して動物愛護法25条の職権発動を促すこと②市区町村議会の議員や首長に対して条例制定の請願・陳情活動をすることをお勧めします。

マンションの敷地内や団地の敷地内での餌やりも違法になる?

公園や広場だけでなく、マンションの敷地内や団地の敷地内においても、鳩やカラスへの餌やり行為は、法律・条例に違反する可能性があります。

動物愛護法、同施行規則、富山市、世田谷区の条例は、場所を限定していませんから、マンションの敷地内や団地の敷地内であっても、餌やり行為によって周辺の生活環境を悪化させている場合には、動物愛護法やこれら条例に違反し、違法になる可能性があります。

ただし、大阪市条例は対象を「公園、広場、道路、河川、港湾その他の公共の場所」(同条例26条1項)「又はその周辺」(同4項)に限定しており、事案によっては、マンションや団地の敷地内は、対象外となる場合もあり得ます。

餌やりをしている人に対して、損害賠償を請求することはできる?

動物愛護法施行規則における、周辺の生活環境が損なわれている事態と認定されうる程度の被害が生じているなら、餌やり行為は周辺住民の生活環境という法的保護に値する利益を侵害していることになりますから、民法上の不法行為(民法709条)として慰謝料などの損害賠償請求が可能となる場合があります。

さらに、事後的な賠償請求では賄いきれない程の生活侵害が生じているならば、餌やり行為の差し止め請求が認められる可能性もあります。

以下、実際に損害賠償請求が認められた裁判例を2つ紹介します。

1.大阪地方裁判所 平成22年3月12日判決

<事案>
Y(被告)は、自宅前で毎日鳩の餌やりを続けていたため、向かいに住むX(原告)宅の屋根にも鳩がとまるようになり、X宅の屋根は大量の鳩のフンで劣化し、洗濯物も干すことができない状態となりました。

XはYに対して、何度も鳩の餌やりをやめるよう求めたのに、Yは執拗に鳩の餌やりを続け、やめようとはしませんでした。

そこで、XはYに対して、鳩の餌やりの差止め請求と、345万円の損害賠償請求を求めて提訴しました。

<判決>
裁判所はYに対し、Xの自宅周囲30メートル以内での鳩の餌やり行為を禁止することを命じました。

そのうえで裁判所はYに対し、X宅の屋根の修理代金や、Xの被った精神的苦痛による慰謝料請求として、合計216万円の損害賠償の支払いを命じました

2.東京地方裁判所 平成7年11月21日判決

<事案>
都内のマンションに住むY(被告)は、数年間にわたり、ベランダ、室内等において鳩を飼い、餌やりを継続していました。
鳩は、常時50羽を超えており、時には100羽以上の鳩が飛来することもありました。

大量の数の鳩が、糞や羽毛を隣の部屋、上・下階のベランダにもまき散らしていました。

住民たちはベランダに洗濯物を干すことができなくなり、悪臭とダニが発生し、マンションの資産価値も下落しました。

建物の保存に有害な行為など区分所有権者の共同の利益に反する行為を行う占有者に対する退去請求を認めている建物区分所有法第60第1項に基づき、Yに退去を求め、何度も警告文を渡して鳩の餌やりをやめるよう注意しましたが、Yは聞く耳を一切持ちませんでした。

そこで管理組合は、Yに対し、退去と損害賠償請求を求めました。

<判決>

裁判所は、Yへの退去請求を認めました。

そのうえで裁判所はYに対し、鳩のフンによる汚損洗浄工事の費用などの損害賠償として、200万円の支払いを命じました。

餌やりが迷惑な場合、どこに相談すればいい?

餌やりをやめるよう、直接要求するのは避けるのが無難

餌やりをしている人に、やめるよう直接注意すること自体は問題ないのですが、注意されたことに腹を立てて、暴行事件へと発展したケースが実際にあります。

直接注意するのはなるべく避けるのが無難です。

自治体に相談をする

餌やり行為の被害を被っている場合には、お住いの自治体に相談をしましょう。

自治体によりますが、「生活環境」を担当する部署が相談窓口になる場合が多いです。

餌やり行為についての条例がある自治体の場合は、餌やりをしている人に対して、餌やりをやめるよう、指導・勧告・命令など適切な対応を行ってくれる可能性があります。

条例がなくても、何らかの対応をとってくれる可能性がありますし、条例の制定又は改正を検討する場合もあります。

弁護士に相談をする

餌やりが原因で、被害が生じている場合には、弁護士など法律の専門家に相談をしましょう。

裁判例のように、鳩のフンで家の屋根が劣化した場合や、洗濯物を干すことができない状況になっている場合には、損害賠償請求だけでなく、餌やりの差止め請求をすることも考えられます。

まとめ

餌やりが原因で損害を被った場合には、市役所だけでなく、弁護士など法律の専門家に相談をして、損害賠償請求や餌やりの差止め請求をしてみてもいいかもしれません。

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