拾得物の報労金を請求する権利とは?いくら請求できる?

身近な法律問題

財布などの落とし物・現金を拾った経験はあるでしょうか?

落とし物を拾った場合は、交番に届けたりすると思いますが、落とし主が見つかった場合、「お礼をもらえる権利」はあるのでしょうか。

また、お礼をもらえなかったとき、お礼を支払うよう請求することはできるのでしょうか。落とし主は支払う義務があるのでしょうか。

この記事では、落とし物・現金を拾った場合にトラブルにならないようにお礼を求める権利について、分かりやすく解説していきます。

遺失物法と報労金|落とし物を拾うとお礼を支払う義務あるの?

落とし物の落とし主が、落とし物を拾った人に対して支払う報酬を「報労金」といいます。

「遺失物法」という法律は次のとおり、落とし主は落とし物を拾った人に対して、報労金を支払わなければならない旨を定めています。

<第28条第1項>
「物件(誤って占有した占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格の100分の5以上100分の20以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。」

この条文により、落とし物を拾った人は落とし主に対して、拾った物の「価格の5%から20%までの範囲」で、報労金を支払うよう請求することができます。

たとえば、1万円を拾った場合には、500円から2,000円の範囲で報労金の請求ができることになります。

この条文から分かるとおり、落とし物を拾った人が報労金を請求できる権利がある一方で、落とし主は報労金を支払う義務があることになります。

道端などで拾った場合と施設内で拾った場合で、請求できる額は変わるの?

道端などで落とし物を拾った場合

道端や公園などで落とし物を拾った場合には、先ほど解説したとおり、拾った物の価格の5%から20%までの範囲内で報労金を請求することができます。

また、当事者間で合意があるのなら、5%以下や20%以上の報労金を請求することができる場合もあります。

施設内で落とし物を拾得した場合

施設内で落とし物を拾った場合については、遺失物法が次のように定めています。

<第28条第2項>
「前項の遺失者は、当該物件の交付を受けた施設占有者があるときは、同項の規定にかかわらず、拾得者及び当該施設占有者に対し、それぞれ同項に規定する額の2分の1の額の報労金を支払わなければならない。」

施設内で落とし物を拾った場合には、拾った物の価格の5%から20%までの範囲内の報労金を、「拾った人と施設占有者の間で折半」して受け取ることになります。

たとえば、デパートで1万円を拾った場合には、500円から2,000円の範囲内で報労金を請求できますが、その報労金は拾った人とデパートの間で折半することになるので、それぞれ250円から1,000円の範囲内で報労金を請求できるにとどまります。

仮にデパートが報労金の受け取りを放棄したとしても、拾った人が請求できる報労金は、2分の1である250円から1,000円の範囲内になります。

報労金の請求権は一定期間が経過すれば消滅する?

道端などで落とし物を拾った場合

道端などで落とし物を拾った場合には、拾った日から「1週間以内」に警察署に提出するか落とし主に返還するかしなければ、報労金を請求する権利を失うことになります。

そのため落とし物を拾い、報労金を請求しようと考えている場合には、なるべく早めに落とし主を探して返還をするか近くの交番・警察署に提出するように心がけましょう。

施設内で落とし物を拾得した場合

デパートなどの施設内で落とし物を拾った場合には、拾った時から「24時間以内」に施設占有者に落とし物を交付しなければ、報労金を請求する権利を失うことになります。

そして、落とし物の交付を受けた施設占有者は、交付を受けた日から「1週間以内」に落とし主に返還するか、警察署に提出しなければ、報労金を請求する権利を失うことになります。

報労金の請求権の消滅

落とし物を、警察署に提出をした後もしくは期間内に落とし主に返還した後の「1か月以内」に報労金の請求をしなければ、報労金を請求する権利を失うことになります(遺失物法第29条)。

たとえば、1月1日に落とし物を「拾った場合」には、1週間後である1月8日までに落とし主に返還又は警察署に提出をしなければなりません。

また、1月3日に落とし物を「返還又は提出」をした場合には、そこから1か月後である2月4日までに、報労金の請求をしなければならないことになります。

期間の計算については、初日は参入しませんので、拾った日の次の日、返還又は提出をした日の次の日から、それぞれ計算することになります(民法140条)。

参考:現金以外の株券や小切手などを拾った場合には、いくらの報労金を請求できるの?

現金ではなく「株券」や「手形」「小切手」などを拾った場合には、その額が大きすぎるので、その物の「価格」をどのように評価するのか、問題となってきます。

株券の場合
裁判例(大阪高等裁判所平成20年 1月25日判決)は、株券の場合について、以下のように判示しています。

「株券の価格は、額面額や時価そのものではなく、遺失者が損害を受ける危険の程度を標準として決定すべきである。」

手形の場合
裁判例(名古屋地方裁判所昭和40年3月4日判決)は、手形の場合について、以下のように判示しています。

「遺失手形の価格は、その手形の遺失者が手形を遺失したことによって受ける経済的な不利益又は危険と、他面その手形の拾得と返還によって遺失者が受ける危険防止の利益すなわち、経済的利益とを基礎として算定するのが相当である。」

小切手の場合
裁判例(東京高等裁判所昭和58年 6月28日判決)は、小切手の場合について、以下のように判示しています。

「小切手が現金化され又は第三者に善意取得されて遺失者が財産上の損害を被る危険の程度を勘案し、当該小切手金額及び右危険の程度を考慮して「物件の価格」を定めるべきである。」

裁判例から分かること

以上の3つの裁判例から、株券や手形・小切手の「価格」は、その物の落とし主に、「経済的損害が発生する危険性」をもって判断するということが分かります。

そのため、株券や手形・小切手を拾った場合は、現金のように5%から20%までの範囲内というように、はっきりと「金額の上限は決まっておらず」、それぞれの事案によって異なることになります。

落とし物のお礼でトラブル!報労金を払わない場合|実際の裁判例

実際に、報労金が払われなかった場合に、訴訟が行われることがあります。下記に、報労金の支払いを請求した事例を2つ紹介します。

新潟地方裁判所長岡支部平成22年1月13日 和解

<事案>
Xは、残高800万円の通帳及び印鑑を拾いました。そのため、Xは落とし主であるYに対し、報労金の支払いを請求するために訴訟を提起しました。

<結論>
この裁判は、和解による解決となりました。

和解によって、YはXに対して、30万円の報労金の支払いをすることとされました。
この事案は、通帳残高800万円に加え、印鑑まで落としてしまっていたので、比較的容易に第三者がお金を引き出すことができると判断され、「遺失者が経済的損失を被る危険性が高い」として、報労金は通常よりも高めに設定されたと考えられます。

東京高等裁判所昭和58年6月28日判決

<事案>
Xは落ちていたY銀行のカバンを拾いましたが、そのカバンの中には総額約78億円にも上る額面の小切手などが入っていました。そこで、Xはそのカバンをすぐに警察に届け、落とし主であるY銀行に対し、報労金の支払いを請求しました。

Xは、「総額約78億円にもなるものを拾ったのだから、少なくともその5%である3億9,000万円は報労金として支払われるべきだ」と主張していました。

一方Yは、「小切手は現金ではなく、容易に換金できないものであるため、小切手自体は無価値であり、報労金を支払う必要はない」と主張して、報労金の支払いを拒絶しました。

<判決>
裁判所は、「遺失者であるY銀行が本件小切手を遺失したことにより、本件小切手が現金化される可能性は絶無であったのであり、本件小切手が第三者に善意取得されてY銀行が本件小切手金相当の出捐を余儀なくされ、財産上の損害を被る危険は絶無ではなかったが、その程度はきわめて低かった」として、本件小切手自体の価値は極めて低いと判断しました。

そして、裁判所は本件小切手の価値を額面額の2%程度と算定しました。

結論として、裁判所はYに対して、900万円弱の報労金をXに支払うように命じました。

電子マネー機能の付いたケータイを拾った場合には、いくらの報労金を請求できるの?

ケータイ端末自体について

電子マネー機能の付いたケータイを拾った場合には、まず、そのケータイ端末自体の「市場価格」が落とし物の価格として判断されます。

そのため、新品か中古かで、請求できる報労金の金額は変わってくることになります。

電子マネー機能について

次に、電子マネー機能の分の「価格」を判断することになります。
普通に考えれば、そのケータイに入っている電子マネーの利用限度額が1万円であれば、1万円をその「価格」として計算することになりそうです。

しかし、一般的に、電子マネー機能の付いたケータイは、ロックをかけるなどして容易に第三者が利用できないようにするのが通常です。

そのため、ロックなどをかけていることによって、容易に第三者がそのケータイで電子マネー機能を使うことができないような場合には、そのケータイの電子マネー機能が不正に利用されるリスクは少ないと言うことができますので、仮に1万円が利用限度額であったとしても、その「価格」は1万円にはならないと考えられます。

仮にケータイにロックがかけられていなかったとしても、セキュリティサービスなどにより、落とし主が電子マネー機能の利用を中止させるなどして、何らかの措置をとっていた場合には、電子マネー機能が悪用される危険性は低くなりますので、「価格」が1万円と評価されることはないと考えられます。

価値のあるデータが入っていた場合について

ケータイには、写真や第三者の電話番号など、落とし主にとっては価値のあるテータがたくさん入っています。
これらのデータは、落とし主にとっては価値が高いものですが、その他の人にとっては価値が低いものであるため、「価格」をどのように決定するか難しい問題となります。

この点について、裁判例などはありませんが、一般的には拾った人と落とし主の間で話し合って決めることとされています。

とはいっても、データ自体の価格を当事者間で決定することは不可能に近いので、その報労金の金額は「常識的にみて、感謝の気持ちに値する程度の金額」になると考えられています。

落とし主にとって貴重なデータが入っていたとしても、高額の請求ができることまでは想定されていません。

報労金の支払いを請求する際の流れは?

落とし主に直接返還する場合

落とし物を落とし主に直接返還する場合には、解説した期間内に落とし主に返還をし、報労金の支払いを直接請求することになります。

拒絶された場合には、弁護士に相談するなどして訴訟を提起し、報労金の支払いを請求することができます。

警察署に提出した場合

落とし物を警察署に提出した場合には、警察署において「拾得物件預り書」という写し紙が作成されます。

これを作成する際に、報労金の請求をするか否かを警察官から尋ねられますので、その際に「請求する」と答えて連絡先を伝えれば、後日落とし主が現れた際に、落とし主から連絡が入ります。

そこで、当事者間で報労金の金額を5%から20%までの範囲内で定め、請求することになります。

報労金の請求は当事者間で行うもので、警察は一切関与しません。

落とし主が見つからなかったらどうなるの?|保管期間

警察署に提出された落とし物は、落とし主を探すために、提出された日から3カ月間、警察署で保管されます。

そして、提出された日から3カ月たっても落とし主が判明しない場合は、3カ月たった翌日から2カ月以内の間に、拾った人がその物を受け取ることができます。

もっとも、ケータイやカードなど個人情報が記録された物は受け取ることができません。

まとめ

落とし物を拾った場合には、落とし主に対して報労金を支払うよう請求できる権利があります。

請求できる金額は、法律の上限内で当事者間で決定することになります。

落とし物を拾った場合には、自分の物にしてトラブルを引き起こしてしまわず、まずは警察署に届けるようにしましょう。

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