執行猶予とは|前科はつく?生活への影響は?

囚人刑事事件

「懲役〇年・執行猶予△年」の判決!

新聞やテレビなどのニュースで、「懲役〇年・執行猶予△年」という判決を聞いたことがあると思います。

懲役という言葉は何となくイメージは湧くものの、執行猶予という言葉の意味がよくわかっていない…という方も多いのではないでしょうか?

今回は、執行猶予とは一体何なのかという基礎知識に加え、執行猶予と実刑との違い、執行猶予付き判決でも前科は付くのかどうか、また執行猶予中の生活への影響に至るまで、執行猶予に関して詳しくご紹介していきます。

執行猶予とは

執行猶予とは、刑事事件において被告人に対して有罪判決が出た場合、その刑の執行を一定期間猶予して、その期間内に再び罪を犯さないことを条件に刑の言い渡しの効力を消滅させる制度のことを指します。

執行猶予付きの判決となると、裁判所による判決で有罪が宣告されたとしても、

  • 実際に刑務所に入ること
  • 罰金を納付すること

を一定期間保留にしてもらいながら普通の生活を送ることができます。

その期間中、再度罪を犯さずに過ごすことができれば、有罪判決によって宣告された刑罰は効力を失うことになります

もしもその期間中に再び罪を犯してしまった場合には、その罪の刑罰と執行猶予されていた分の罪の刑罰とが合わせて科せられるという制度となります。

執行猶予判決になる条件

刑事事件であれば、どんな事件であっても執行猶予が付けられるというわけではありません。

刑事裁判において執行猶予付きの判決となるためには、一定の条件をクリアしていることが必要となります。

3年以下の懲役または50万円以内の罰金

基本的には、宣告される判決の内容が「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」である場合にのみ、執行猶予を付すことができます。

そのため例えば殺人や強盗など、法定刑が3年を超える犯罪で、減刑の理由がない重罪の場合には、執行猶予が付くことはありません。

被告人の状況

基本的には、該当する罪が被告人にとって初犯である場合や、仮に前科があったとしても罰金刑などの軽微な罪のみである場合には執行猶予が付く可能性があります。

過去に起訴され、禁固以上の刑に処せられた経験がある場合であっても、刑の終了から5年以上経過していて、その後禁固以上の刑を受けていなければ、執行猶予が付く対象と判断されます。

実刑と執行猶付判決との違い

では、執行猶予付きの判決と実刑とはどのように異なるのでしょうか?

執行猶予付判決と実刑判決の共通点は、刑事裁判を経て下された有罪判決であるということです。

しかし、執行猶予の付かない実刑判決の場合は、有罪判決が下されると直ちに刑務所などに収容されるのに対して、執行猶予付きの判決の場合には、直ちに刑務所に入る必要はなく、執行猶予期間中通常通りの生活を送ることができます。
ここが1番の大きな違いと言えるでしょう。

例えば「懲役3年・執行猶予5年」という判決が出たとしましょう。
この場合、5年間は懲役刑の執行が猶予され、基本的に通常通りの生活を送ることができます。
この5年間の執行期間中、再度犯罪を行うことなく猶予期間を経過することができた場合には、判決の言い渡しは消滅し、言い渡された刑罰(懲役2年)を受ける必要もなくなります。
この場合、執行猶予付判決を受けることができたことにより、被告人は刑務所に収容されることなく、そのまま社会復帰することができるということです。

このように、執行猶予付きの判決となるかどうかは、刑務所に入ることになるかどうかという点で非常に大きな要素であると考えられます。

ここで覚えておかなくてはならないのが、執行猶予期間中には特に注意して日常生活を送る必要があるということです。

もしも執行猶予期間中に他の犯罪を行い、裁判で有罪判決が出てしまって場合、原則として執行猶予は取り消され、刑務所に入ることとなります。
このとき、もともとの執行猶予付き判決の懲役に加え、執行猶予期間中に再度犯してしまった罪に関する刑期も加算され、服役期間が長くなってしまいます。

執行猶予が取り消される場合

刑の執行に猶予期間を与えられる執行猶予付き判決ですが、執行猶予期間中の行いによって執行猶予が取り消されてしまうことがあります。

執行猶予の取消しは、「必要的取消し」と「裁量的取消し」に分けることができます。

必要的取消し

以下の場合には、執行猶予は必ず取り消されることとなります。

執行猶予中に新たに罪を犯し、禁固以上の実刑になった場合

例えば「懲役2年・執行猶予3年」という判決が確定し、執行猶予期間である3年の間に、何らかの罪を犯し、起訴され、裁判を受けたとしましょう。
この執行猶予期間中の罪に対して、執行猶予のつかない実刑判決(ただし禁固以上、罰金は含まない)を受けた場合には、最初の罪の執行猶予は必ず取り消されます。
この場合、最初の罪の刑期(懲役2年)と、今回の罪の刑期を足した期間の実刑となります。

執行猶予期間中に、以前の罪が発覚し、禁固以上の実刑になった場合

例えば「懲役2年・執行猶予3年」の判決が確定し、執行猶予期間である3年の間に、以前に犯した別の罪が発覚し、起訴され、裁判を受けたとしましょう。
この以前に犯した別の罪について、執行猶予のつかない実刑判決(禁固以上、罰金は含まない)を受けた場合には、後に犯した罪での執行猶予は必ず取り消されます。
この場合、以前に犯した罪の刑期と今回の罪の刑期を足した期間の実刑となります。

裁量的取消し

以下の場合には、執行猶予が取り消されることもあります。

猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられた場合

例えば「懲役1年・執行猶予3年」という判決が確定し、執行猶予期間である3年の間内に、何かの罪を犯し、起訴され、裁判を受けたとします。
この時、罰金に処せられた場合には、最初の罪の執行猶予が取り消されてしまい、最初の罪の刑期の実刑となる可能性があります。

刑法第25条の2第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重い場合

例えば「懲役1年・保護観察付の執行猶予3年」の判決が確定した後、執行猶予期間である3年の間に、保護観察中の定められた順守義務を守らず、さらに態度が著しく悪い場合、保護観察付きの行猶予は取り消され、実刑となることがあります。

執行猶予は前科になるのか

執行猶予が付いた場合、判決直後には刑は執行されません。

執行猶予期間として定められている期間中、再び犯罪を犯すことがなければ刑務所に入る必要はなく、そのまま社会復帰を果たすことができるのです。

しかし執行猶予は、有罪判決に基づく刑の執行を一定の期間猶予するという制度に過ぎず、有罪判決を受けたという事実は変わりません。
そのため、執行猶予付きの判決であっても「前科」はついてしまいます

では執行猶予が満了した場合、前科は消えるのでしょうか?

答えは残念ながら、NOです。

再度罪を犯すことなく執行猶予期間が満了した場合には、刑の言い渡しについて効力は失われます。(刑法第27条)

しかし刑の効力が失われたとしても、刑が言い渡されたという事実がなくなるわけではなく、前科が消えるわけでもありません。

執行猶予の就職への影響は?

執行猶予付きの判決であっても前科が付いてしまうとなると、やはり気になってくるのが就職への影響ではないでしょうか?

前科がついてしまうと、就職が不利になってしまったり、就職先が制限されてしまうケースが多いのが事実です。

具体的には、弁護士・医師などの就職は法的に制限されるほか、一定の職業上の資格や免許においては、前科の内容によって取得・登録ができないこともあります。

また現在就業している場合は、勤務先から懲戒解雇される可能性もあります。
前科が公になってしまった場合には、解雇後の再就職が困難となってしまうケースも残念ながらよくあるのが事実です。

そのため、就職への影響を最低限に抑えるためには、できる限り早い段階で弁護士に相談をし、前科が付くのを防ぐことが必要です。

執行猶予中の生活への影響

では執行猶予期間中の日々の生活は、どのようなものなのでしょうか?

執行猶予期間中は、再び罪を犯すことのないよう普段以上に気をつけて生活することが必要となってきますが、基本的には通常通りの生活を送ることができます。

例えば、居住移転については制限はありませんし、裁判所等に許可を受ける必要もありません。

しかし、有罪判決が出ている以上、全く影響がないわけではありません。

例えば、海外渡航のためにパスポートを取得する際に、旅券発給申請書類に加えて「渡航事情説明書」や「執行猶予判決の謄本」なども提出する必要があり、手続き上の負担が増える場合があります。

さらに、渡航用のビザの取得に時間がかかったり、取得できないこともあり、渡航先の国から入国が拒否される可能性があることも忘れないようにしてください。

執行猶予でも戸籍に残る?

戸籍は、結婚届の提出や年金の受給など人生の大切な場面で必要となる場合が多いですが、前科が付いてしまった場合には執行猶予付きの判決でも戸籍に残ってしまうのでしょうか?

これに関しては、答えはNOですので、安心してください。
実刑・執行猶予関係なく、前科が戸籍に記載されることはありません。

まとめ

今回は、執行猶予について解説しました。

実刑判決と異なり、執行猶予付き判決は刑の執行に猶予期間が設けられるとはいえ、有罪判決であることに変わりはなく、前科がついてしまいます。

前科がついてしまうと、就職や結婚だけではなく、日常生活にも影響が出てしまうのは事実です。
できる限り前科が付くのを避けるため、ご自身またはご家族が刑事事件の被疑者・被告人になってしまった場合には、できる限り早い段階でまずは弁護士へ相談することをオススメします。

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